月下星群 〜孤高の昴

    “風の向こうで”
  


方向音痴はお互い様で、
大事なものは見失わないところもお揃いで。
そんな君だから、そうさ心配なんかしちゃあいない。
変わってしまっていたなら、そん時はそん時。

 でも、なんでだろ。
 そんなこと、欠片ほどにも思わなかった。

一本気といや聞こえはいいが、
単純単細胞だから、考えようにひねりがないだけ。
進歩がないのもお互い様か。

けどよ、
本質が変わっちまったら、
そりゃあもう そいつ本人じゃねぇだろよ。




    ◇◇◇


珍しくも夜更かしなんぞをしたらしく、
マストに凭れてたら、膝を勝手に枕にされた。
風もあれば 陽射しだって寝るには眩しい。
部屋へ戻ってベッドへ入りゃあいいのによ。

 『いやだ、ここが一番いい』

どうしてもと譲らないまま、
我らが大将、あっと言う間にくうすう寝入っちまってよ。
傍若無人は今に始まったことじゃあない。
何たって海賊なんだから、
我の強いクルーばっかなのは今更な話だし。
それを束ねようって頭目なんだ、
唯我独尊でもトップ張って当然なのかも知れないが。

 何なんだろうな。
 この拘束力。

思えば昔っから“約束”という言葉が、ある意味 鬼門で。
義理堅いというのじゃあない、
人が善いというのも違う。
けど、最低限の矜持のようなものになってたと思う。
絶対に果たさねばならない“誓い”があって、
それはもはや、信条以上の“大原則”になっており。
だがだが、それと他とは別物で、
何も他でも律義になる必要はないはずなのに。

 気がつきゃ色んな約束を、
 こいつとの間に積み重ねてる。

こいつの下で海賊になることに始まり、
大剣豪になるまで、二度と誰にも負けないこと。
そうそう、
こいつを庇うような真似は控えることってのは、
何度も何度も言い聞かされてる。
確かに、頼もしい奴だから仲間にしたが、
そういう奴の戦いっぷりを間近で見たくて誘ったんで、
いざって時の楯にするためなんかじゃあないと。

 …いや、
 そんな風に上手に言われた訳じゃあなかったが。

 「………んー。」

何かが意識をつついたか、
口の中で何やらもにょもにょ呟きながら、
寝相を微妙に変えたその拍子。
丸ぁるい頭から ぽそんと転がり落ちたのが麦わら帽子で。
転がってくような外れ方じゃあなかったが、
それでも おっと手が伸びていたのは、
もはや条件反射なのかも。
海に落としちゃあ、
そのたびに拾い上げにと飛び込んでたのがつい最近まで。
さすがにこの頃では、
背中側へと落ちて止まるよう、提げ紐をつけたらしく。
それより何より、
暢気に吹き飛ばされてるような暇間なぞ……

 ……ああそうか、
 今なんてのはそういう間合いか。

退屈は猫を殺すというし、
研磨錬磨あってこそと海に出たには違いない。
ごちゃごちゃと考え込むのは苦手だし、
論より行動、
動作反射や太刀筋の組み立てを、
いかに身に染ますかにしか関心はない。

 だってのにな。

先に寝ちまうからよ、
寝遅れちまったじゃねぇかよ、と。
ズボンの生地越し、子供体温に間近い熱を、
くすぐったくも手放せずにいた。
あれは何時の、何処を辿ってた航路だったっけな…。




   ◇◇◇


方向音痴はお互い様で、
大事なものは見失わないところもお揃いで。
そんな君だから、そうさ心配なんかしちゃあいない。
変わってしまっていたなら、そん時はそん時。

 けれど、
 本質が変わっちまったら、
 そりゃあもう そいつ本人じゃねぇだろと。

そんな思うのは、果たして俺の方だけだろか。
こんなカッコで引き剥がされて、
ここが何処かも判らなくって。
だがまあ、そっちに焦りはねぇんだ。
引き離されてた時ほど、不思議と迷った試しはねぇから。
ただ、何年かかるかの保証はなくて、
そんな間に、
風向きが変わっていたらばどうしよか。
約束交わしたその君が、変わっていたらどうしよか。
これまで一度も感じなかった、感じる暇間のなかった旅が、
今は少々勝手が違う。
世界政府へ喧嘩を売るなんて無茶にさえ、
一縷も動じはしなかったものが。
今はさすがに、妙な胸騒ぎが止まらずで、
早く戻らにゃと気が急くばかり……。



  世界を揺るがす大きな嵐、
  それが届いたせいかも知れぬ……。





  〜 to be continued 〜  09.12.03.


  *言わずもがな、原作本誌へ続くと言いたい訳で。
   つか、このエースの公開処刑を取り巻く大騒動が決着見ないうちは、
   麦ワラの仲間たちの登場はお預けなんでしょうか?
   レイリーさんと共に颯爽と、
   コーティングの済んだサニー号で現れるという筋書きに
   1万ベリー賭けるのは無謀でしょうか?
   どうやって集結したやら、
   ルフィが経験したすったもんだみたいのが他の面々にも当然あって。
   でもその詳細は、おいおい判ってくるということで。
   ゾロなんて、何だかよく判らない傷を山ほど増やしてそうで不安だ…。

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